1.13.1 安全インターロック
緒言
入射器の安全インターロック系は、入射器の電子陽電子ビームを安全にリングに入射する、又は単独運転を行うための安全に関するシステムで、このシステムが異常を検知したときは運転は不可能となる。システムの中に組み込まれている信号は、概念として3種類に分類され、これらは、加速器の状態を示す信号、人間に対する安全を示す信号及び加速器装置に対する安全を示す信号である。以下にこれらの詳細を説明してゆく。
システム概要
入射器インターロックシステムではPLCを使用しており、殆どのインターロック信号は、入射器主制御室及びAB副制御室にあるPLC(図13.1.3
(b))に収集されている。AB副制御室には2台のPLCがあり、これらがAセクター入射部からCセクター入射部手前までの信号入出力を担当している。1台がRF系の信号入出力専門であり、もう1台がそれ以外全部を受け持つ。入射器主制御室では1台のPLCが、Cセクター入射部から入射器終端までの信号入出力と、入射器全体の統括を行っている。両制御室間の信号授受は、通信回線を一切使用せず、ハードワイヤのみで行っている。そのため各PLCは、必要に応じ、一旦入力した信号を複製してDC24V信号や無電圧接点信号として出力している。両制御室ともに、PLCが持つインターロック情報を制御ネットワークに流すために、ファイヤーウォールとしてのPLCが別途1台ずつ存在する。これら通信用PLC経由で制御系に上げた情報を、入射器主制御室及びKEKB制御室にある入射器専用のWindows端末上(図13.1.1)に、e+/e-
LINAC Interlock status パネル(図13.1.2、以下Statusパネルと呼ぶ)として常時表示している。KEKB制御室にも、入射器ビームの操作のためにPLCを1台置いており、これは入射器主制御室のPLCと専用回線で通信している。こちらは遠隔操作の便宜を図るためのものであって、インターロックシステムの構成員ではない。PLC専用回線が途切れたとしても、安全インターロックシステムとしては何の問題もない。各PLC間の相互関係を図13.1.3
(a)に示す。PLCを経由しない信号として、制御卓(入射器主制御卓びKEKB制御卓)の非常停止スイッチがあり、ハードワイヤのみで動作する。但し、スイッチの状態はPLCにも取り込まれている。なお、入射器トンネル内のビーム非常停止スイッチは、PLCの内部処理を経て動作する。
安全インターロック信号の詳細
基本的な考え方
図13.1.4 (a)に全てのインターロック信号の名称とその従属関係を、図13.1.4
(b)にビームトリガー可能のための8通りの入射モード条件(運転操作パネルで操作を行うが、これについては後述する)を示す。図に示すように、ビームがオンされるまで、基本的には以下の2段階の条件がある。
(1)入射器運転可能条件(LINAC READYのこと、後述)
(2)ビームトリガーオン可能条件
(1)は、入射器が運転可能状態である条件を示す。すなわち、LINAC READYのみ満たせばよい。この段階で、電子銃の高圧が印加可能である。しかしながら、この段階では、ビームトリガーを受け付けない。(2)の条件が満たされて初めてビームオンが可能となる。ちなみに、電子銃のみのローカルテストを行う場合においては、図13.1.4 (a)に示すように、テストモードであることとGV_A1_Gが閉であれば、電子銃からビームを出すことができる。図13.1.4 (c)に仮電子銃から運転(PF/ARへの入射)する際のインターロック信号の名称とその従属関係を、図13.1.4 (d)にビームトリガー可能のための3通りの入射モード条件を示しておく。
インターロックステータス
(1)表示パネル
Statusパネルは、4段に分けてその状態が表示される。基本的なインターロックステータスは、1段目に表示され、2、3段目は、それぞれ、セクタABC及びセクタ1-5における詳細を示す。4段目には、警告(WARNING)を表示するようにしてある。WARNINGはの内容は、インターロックシステムに関係しない。
(2)インターロック信号の分類
(a)基本的な3つのREADY信号
基本的な加速器側の安全状態を確認する信号として以下の3つのREADY信号がある。
*LINAC READY
*AR/KEKB READY (AR/KEKBリングからもらう)
*PF READY (PFリングからもらう)
リング側のREADY信号は、リングの入射受け入れ可能条件又は、入射器の単独運転を可能にする条件が満たされて初めて発行可能となる信号である。注意したいのは、LINAC READYを満たすには、リング側のREADY信号が必要であるということである。
(b)LINAC READYを満たすための信号
LINAC READYを満たすための信号を以下に説明する。
*AR/KEKB READY
*PF READY
*AREA MONITOR SAFE(図13.1.5 参照)
入射器棟外に設置している放射線エリアモニタに関する信号である。
*EMERGENCY OFF-ALL
入射器主制御室及びKEKB制御室内の運転操作パネルにある非常停止スイッチが押された場合に異常事態(赤色)を示す。
*EMERGENCY OFF-HV
入射器トンネル内に設置している非常停止スイッチが押されたときに異常事態(赤色)を示す。Statusパネル上で、どのセクタで発生したかを確認できる。
*TUNNEL DOORS CLOSED (図13.1.6 (a)~(c)参照)
入射器トンネル内に通じるドア(Status表示で101~115番)の開閉に関する信号である。ドアが開くと赤色に変化する。
*TARGET OVER CURRENT(整備中)
2バンチ加速時の信号で、陽電子発生用ターゲット以降で許容ビーム電荷量(12.5nC/pulse)を越えると発行される信号である。
*DOORS CLOSED (図13.1.7 (a)~(c)参照)
全てのドア(クライストロンギャラリー(1~16番)及びトンネル)の開閉に関する信号である。ドアが開くと赤色に変化する。TUNNEL
DOORS CLOSEDが赤表示の時は、DOORS CLOSEDも赤表示である。また、図では、全ての状態を表示している(開閉両状態)ので注意して欲しい。なお、図中、黄色表示は、ギャラリー南端のクライストロンテストホールとギャラリーとの境界にあるアコーデオン式の開閉扉の状態(閉の時は緑)を示すもので、ここでは、30秒間の開状態は許され、その間黄色になている。30秒をすぎるとテストホールでのクライストロンの運転は停止されるが、入射器運転には関係しない。ただし、アコーデオン式の開閉扉が開の状態で、かつテストホールのシャッターが開になると入射器運転は停止する。
*TUNNEL CLEAR
入射器棟入口にある個人キーに関する信号である。キーが1つでも抜かれていれば赤色を示す。
*SWITCHYARD CLEAR
第3スイッチヤード(SY)入口にある個人キーに関する信号である。キーが1つでも抜かれていれば赤色を示す。
(c)ビームトリガーオン可能条件を満たすためのその他のインターロック信号
*SY3 OVER CURRENT(整備中)
2バンチ加速用の信号で、第3SYの許容ビームパワー(625 W)を越えたときに発行される信号である。
*GATE VALVES OPEN (ABC)(図13.1.8参照)
ABCセクタに設置しているゲートバルブに関する信号である。閉時に赤色に変化する。
*GATE VALVES OPEN (1-5)(図13.1.8参照)
1-5セクタに設置しているゲートバルブに関する信号である。閉時に赤色に変化する。
*VACUUM NORMAL (1-5)(図13.1.8参照)
1-5セクタのビームラインの真空度に関する信号である。これらは、各真空ゲージのメータリレーによる接点信号である。許容真空度は、1x10^-3
Pascalである。
(d)その他のインターロック信号
*ABC REMOTE
AB副制御室にある安全インターロック系に関する信号である。この信号がLocalになっていると(AB副制御室から操作を行う場合に使う)赤色になり、入射器主制御室或いは、KEKB制御室からの運転は不可能となる。ただし、入射の条件が成立するならば、AB副制御室からの操作でKEKBへの入射は可能である。通常は、Remote状態である。
*A1-GUN TEST
A1-GUNのテストモードに関する信号である。ローカルにテストを行いたい時には、この信号を発行する(赤色)必要がある。個人キー用のボックス一番下の電子銃テストキー(名称は、陽電子テストキー、仮電子銃の場合は、電子テストキー)を抜き、電子銃室モジュレータのキー差込み口にキーを差込むことにより信号を発行することができる。この時当然の事ながら、運転は不可能となる。
*Slow e+ Target Water
低速陽電子ラインの陽電子発生用ターゲットの冷却水に関する信号である。冷却水が止まっているか或いは、水量が低下している場合は、赤色に点灯する。この場合、入射器は、入射のための運転を続行することはできるが、Jアーク部の偏向電磁石を落として、直線的にビームを出し陽電子発生用ターゲットに照射することはできない。もし、この信号が発行された状態で、偏向電磁石を落とすと運転は不可能になる。
その他の表示
Statusパネルでは、その他に、現在のビームのON/OFF状態、電子銃高圧のON/OFF状態をセクタA-C及びセクタ1-5に分けて表示している。
(a)A1 Beam ON/OFF, Gun HV ON/OFF@Sector A-C
ちなみに、ここで使われているGun HV OK信号は、運転操作パネルからのビームON/OFF可否を示す。赤表示の時は、運転操作パネルからの操作ができない。LINAC
READYであっても、電子銃室でローカル/テストモードにした後は、赤表示になる。運転操作パネル上のリセットボタンにより緑表示に変化しリセットされる。
(b)A1 Beam ON/OFF, Gun HV ON/OFF@Sector 1-5
(c)WARNING
深刻な異常事態ではないが、このまま運転を続行すれば、いずれは異常事態に発展する恐れがある場合に、警告を運転員に発する。例えば、ビームライン上のゲートバルブではなく(この場合は、直接的にインターロックに関係する)、陽電子発生部用のイオンポンプとビームライン間のゲートバルブなどがこれに当たる。このゲートバルブが閉じた状態で、運転を続行すれば著しい真空悪化につながる恐れが有り、すぐに、対応すべきである。
(d)MAPボタン
このボタンを押すと、トンネル/クライストロンギャラリ内のドアの設置位置及び開閉状態を見ることができる。
1.13.2 運転操作盤
入射器運転操作盤(主操作盤、主操作パネルとも言う)は、円滑に入射器運転を行うための操作盤(又は、パネル)で、この操作盤により、ビームモード及びビームトリガーモードの切り替えを、また、安全インターロック系の一部の操作を行うことができる。操作盤は、入射器主制御室及びKEKB制御室に設置されていて、それぞれ入射器主操作盤(図13.1.9
(a))及び入射器補助操作盤(図13.1.9 (b))と呼ばれる。
(1)Safety
基本的に、安全インターロック系に関しては、補助操作盤ではなく、主操作盤でのみ制御可能である。各種READY信号の他、RF制御に関するキー(RF
Controlキー)及び、どの制御盤で運転が有効かを選択するためのキー(Remote/Localキー)、リセットボタン、緊急停止ボタンがある。
(a) RF制御キー
RF制御キーは、3段階に状態を選択するキーで、READY/RF OK/OFFの3段階がある。入射器運転の場合は、READY状態にする必要がある。この操作は、また、LINAC
READYを要求するモードとなる。RF OKは、RFコンディショニングを行うときに使用する。
(b) Remote/Localキー
Remote/Localキーは、どちらの操作盤(入射器主制御室かKEKB制御室かということ)を有効にするかを選択するキーである。どちらか有効な場所における操作盤においてのみ有効で、両方同時に操作することはできない。
(c) リセットボタン
リセットボタンは、安全インターロック系が動作し運転が不能となり、原因調査終了後、各種のインターロック信号を復帰したい時に使用する。この時、RF制御キーは、READYの状態にある必要がある。このボタンは、主操作盤のみ可能である。
(d) 非常停止スイッチ
文字通り緊急に運転を停止したい場合に、このボタンを押すこと。KEKB制御室の非常停止は、Remote状態(KEKB側選択)のときのみ有効である。入射器主制御室における非常停止スイッチは、Remote/Local状態に関係なく常時有効である。
(2) Beam Mode
最上段にある4つのボタンは、ビームモードに関するボタンで、4つの運転モード(AR/KEKB/LINAC/PFモード)を示している。ここで例えば、入射器運転員が、ARモードを選択したとする(この時、AR
MODEのみランプが点灯)。入射器運転員は、AR運転員に連絡を取ることにより、PF-BT
OFF信号及び、REQ(MODE REQUEST)信号を発行してもらう。これらの3つのランプが点灯されたときに、ACK信号としてリング側に送信され、初めて入射への準備がOKとなる。ここで、前者はPFリングへのビーム輸送が禁止される条件で、後者は、ARが入射器に入射を要求する信号である。BEAM
REQ信号がリング側から発行された時点で、ビーム入射が開始される。
(3) Beam Trigger Mode
ビームトリガーモードには、PF/AR及びKEKBの二種類のモードがある。Beam
Modeの選択後、入射器のビームに対し、どちらのリングに対し同期(トリガー)モードを取るのかを決める必要がある。Beam
Modeが決まってしまうとおのずとBeam Trigger Modeも決まってしまい、なぜ、Beam
Trigger Modeを選択する必要があるのかという疑問がわく。これは、一見おかしなことと思われるが、例えば、過去において、PF入射の場合であったが、リングへの入射を非同期で行い、バンチをベタに入射したいということがあった。すなわち、Beam
Trigger Modeに対して、Beam Modeとは別にその選択に冗長性を持たせたシステムを構築しているのである。
(3) Linac Gun Mode
このモードにより、入射器のビームをどちらの電子銃(A1電子銃又は、CT(仮)電子銃のこと)から出すかを選択する。KEKBの場合は、A1GUNを、PF/ARの場合は、CTGUNを選択し電子銃の高圧を印加する必要がある。リング側から、ビーム入射が要求されるとGATEが点灯し、ビームが入射されることになる。この時、入射器側で、WAITの要求を発行すると、GATEが閉じられ入射が一時停止される。なお、Control/Remote信号は、どちらの制御室(入射器主制御室又はAB副制御室)が主導権をもって運転を行っているかを示す。通常は、入射器主制御室が主導権を持つので、このランプは緑色に点灯している。この時、KEKB制御室での運転は可能である。逆に、AB副制御室が主導権を持つと、入射器主制御室及びKEKB制御室での運転操作は不能となる。この時、このランプは消灯している。KEKB制御室での運転は、あくまで入射器主制御室を延長したものであるという考えに基づいて行われる。
1.13.3トラブルシューティング
安全インターロック表示に異常(赤色)が発生した場合は、まず、
e+/e- LINAC Interlock Statusパネルをよく見ること。
安全インターロックシステムが正常動作している時は、全て緑色の表示になっている。
赤色表示を確認したら、それが何に関する異常かを確認の後、次の対処を行うこと。
真空に関する場合:真空度の低下を待つこと。もし、低下の様子が見られない場合には、真空リークの恐れが考えられるので、入射器の真空担当者(柿原氏)に連絡すること。また、ゲートバルブが閉まった場合は、全ての真空度を確認した後(真空インターロック画面で確認できる)、異常が認められない場合は、ゲートバルブを開けて運転を再開してよい。
ドアに関する場合:開いたドアを特定し(Statusパネル上で確認できる)、そのドアの開閉状態を現場まで確認しに行くこと(地震で開閉することはよくある)。もし特定されたドアが実際に開いていたなら閉めた後、ギャラリー/トンネルに関わらず、人の侵入を確認すべくパトロールを行うこと。無人確認の後、運転操作パネル上のリセットボタンを押しリセットを行うこと。この時、Statusパネル上では緑色に変化する。
エリアモニタに関する場合:PF監視員室(内線5778)に電話をかけて連絡を取り、どのモニタが発報したのかを確認し、定時リセットまで待機すること。運転再開に当たっては、その時の運転状態がどうだったかを振り返り、その後の運転に注意すること。また、運転自身が問題がなかったと判断されるならば、エリアモニタの誤報も考えられるので、この場合は、放射線管理室に連絡を取ること。エリアモニタの定時リセット後のインターロックのリセットは必要である。
許容電荷量に関する場合:許容電荷量を越えてビームが発生した場合は、入射部からすでに許容電荷量を越えている場合が想定されるので、入射部の電荷量が適正値になっていたかを確認すること。この場合は、入射部の異常が考えられるので、入射部担当者(大沢氏)に連絡をとり、その指示を仰ぐこと。その他の場合は、ビームモニタ或いは、その制御システムの異常等が考えられる。このような場合は、全てのモニタに渡り異常を来すことは考えにくいので、電流モニタシステムの誤動作が考えられる。この場合は、許容電荷量を越えた場所を特定した後、モニタ担当者(古川、諏訪田)に連絡を取り、その指示を仰ぐこと。
リングREADYに関する場合:リングの運転員に連絡をとり、READY信号を発行してもらうこと。注意したいのは、PFリング入射時、蓄積/入射の切り替えの際には、PF
RING READYが落ちる。
入射モードに関する場合:運転操作パネル上で、正しい入射モード(Beam
ModeとBeam Trigger Modeがあるので両方をチェックのこと)の選択が行われているかを確認すること。過去に、AR入射をしようとして、A1電子銃から、ビームオンになったことがある。この時の原因は、A1電子銃の高圧を切り忘れていたことによる。この件は、建設時にA1電子銃から全てのビームを出す予定であったためこのようになっているが、平成13年夏には、ビームモードと電子銃の対応を現実に合わせる予定である。
非常停止スイッチに関する場合:直ちに、放射線管理責任者(小林氏)に連絡をとり、その指示を仰ぐこと。
システムに関する場合:PLC等安全インターロックシステムそのものに関わる異常が生じた場合は、みだりにシステムをリセットして運転を再開してはならない。至急、放射線管理責任者(小林氏)に連絡を取ること。